製薬会社の広報が描く“命の現場”とは、一体どのようなものでしょうか。
それは、新薬が研究室で産声を上げる瞬間から、医療従事者の手を経て、一人の患者さんのもとに届き、その方の人生に変化をもたらすまでの長い道のり、その全てに関わる物語かもしれません。
その研究開発の初期段階では、精密な分析機器やその検証技術(バリデーション)が不可欠であり、例えば日本バリデーションテクノロジーズ株式会社のような専門企業が、医薬品の品質と信頼性を支える重要な役割を担っています。
本記事では、長年製薬会社の研究職と広報職を経験し、現在はフリーライターとして活躍する佐々木恵理の視点を通して、医療のリアルな姿を紐解いていきます。
研究者としての科学的な目と、広報担当者として情報を分かりやすく伝える言葉を持つ彼女だからこそ見える「命の現場」。
そこには、医療の最前線で奮闘する人々の熱意、患者さんの切実な願い、そして、それらを繋ごうとする広報担当者の使命感が息づいています。
この記事が、読者の皆様にとって、医療という世界をより身近に感じ、そして「知ること」の先にある希望を見つめるきっかけとなれば幸いです。
広報という仕事の本質
製薬会社の広報と聞くと、どのような仕事を思い浮かべるでしょうか。
新薬の発表会や、メディア対応などをイメージされるかもしれません。
しかし、その本質はもっと深く、社会と医療を繋ぐ重要な役割を担っています。
情報を「一般の言葉」で届ける難しさ
医療や医薬品に関する情報は、専門用語が多く、一般の方には理解しづらいことが少なくありません。
例えば、「作用機序」や「エビデンスレベル」といった言葉は、医療関係者にとっては日常的な言葉でも、多くの方にとっては馴染みのないものでしょう。
広報の重要な役割の一つは、こうした専門的な情報を、誰もが理解できる「一般の言葉」に翻訳して届けることです。
そのためには、単に言葉を置き換えるだけでなく、
- 比喩を用いたり
- 具体的な事例を交えたり
- ストーリーとして語ったり
といった工夫が求められます。
この「翻訳」作業は、時に非常に難しく、言葉一つで誤解を生んでしまう可能性も孕んでいます。
だからこそ、広報担当者には深い知識と高度なコミュニケーション能力、そして何よりも誠実さが求められるのです。
製薬会社のPR部門の役割と責任
製薬会社のPR(パブリックリレーションズ)部門は、企業と社会との良好な関係を築き、維持するための多岐にわたる活動を行います。
その主な役割と責任には、以下のようなものがあります。
役割・責任 | 具体的な活動例 |
---|---|
正確な情報提供 | 医薬品の適正使用情報、副作用情報、疾患情報などの発信 |
企業活動の透明性確保 | 研究開発の進捗、経営状況、社会貢献活動などの開示 |
社会からの信頼獲得 | ステークホルダー(患者さん、医療関係者、株主、地域社会など)との良好な関係構築 |
疾患啓発活動 | 特定の疾患に関する正しい知識の普及、早期発見・早期治療の促進 |
危機管理(クライシスコミュニケーション) | 製品回収や風評被害など、緊急時における迅速かつ適切な情報開示と対応 |
これらの活動を通じて、製薬会社は自社の製品や技術を正しく理解してもらうだけでなく、人々の健康増進や医療の発展に貢献するという社会的使命を果たしています。
社内報から社外発信へ:変化する媒体と伝え方
かつて、企業広報の主な舞台の一つは「社内報」でした。
社員に向けて企業理念や経営方針を伝え、一体感を醸成する役割を担っていました。
私も、研究職から広報へ異動した当初は、社内報の作成を通じて、社員一人ひとりに会社の想いを届けることの重要性を学びました。
しかし、時代は変わり、情報発信の手段は多様化しました。
ウェブサイト、SNS、動画配信など、社外へ直接メッセージを届けられる媒体が格段に増えたのです。
媒体が変われば、伝え方も変わります。
紙媒体の社内報が持つ「じっくり読ませる力」「保存性の高さ」といった特性に対し、ウェブ媒体は「速報性」「双方向性」「拡散力」に優れています。
例えば、新薬の承認というニュース一つをとっても、
- 社内報では、開発に携わった社員の苦労や喜びの声を深く掘り下げて紹介し、共感を呼ぶ。
- ウェブサイトでは、承認された事実を速報として伝え、詳細な製品情報へのリンクを設置する。
- SNSでは、患者さんや医療関係者からの質問にリアルタイムで答えたり、関連情報をシェアしたりする。
このように、それぞれの媒体の特性を理解し、最適な伝え方を選択することが、現代の広報には不可欠となっています。
社内報で培った「共感を呼ぶ力」は、社外への情報発信においても、人々の心に響くメッセージを届けるための大切な基盤となるのです。
「命の現場」とのつながり
製薬会社の広報が発信する情報は、決して机上の空論であってはなりません。
その根底には、常に「命の現場」との強いつながりが不可欠です。
医療の最前線で何が起こり、人々は何を求めているのか。
その生きた声を拾い上げることこそ、広報の原点と言えるでしょう。
医療現場からの声をどう拾うか
医療現場の声は、多種多様な場所に存在します。
広報担当者は、アンテナを高く張り、積極的に情報を収集しにいく姿勢が求められます。
1. 医療従事者への直接取材
医師、看護師、薬剤師といった方々へのインタビューは、現場のリアルな状況や課題、そして医療にかける情熱に触れる貴重な機会です。
日々の診療で感じていること、患者さんとのエピソードなどを丁寧に聞き取ります。
2. 学会・研究会への参加
最新の治療法や研究動向を把握するだけでなく、専門家同士の議論に耳を傾けることで、医療の進歩や課題に対する理解を深めることができます。
3. 患者会・患者団体との連携
疾患を抱える当事者やその家族の声は、何よりも重く、広報活動の方向性を定める上で重要な示唆を与えてくれます。
患者会が主催する勉強会に参加したり、意見交換の場を設けたりします。
4. 関連文献・資料の読み込み
医学論文や専門誌はもちろんのこと、医療制度に関する報告書、患者さんの手記なども重要な情報源です。
これらの活動を通じて得られた情報は、単なるデータとしてではなく、一人ひとりの「物語」として受け止め、発信する情報に血を通わせるのです。
緩和ケア、終末期医療に触れて
私が広報として活動する中で、特に心を揺さぶられたのが、緩和ケアや終末期医療の現場でした。
緩和ケアとは
「緩和ケア」とは、がんなどの生命を脅かす疾患を持つ患者さんとそのご家族に対し、身体的・精神的な苦痛を和らげ、QOL(Quality of Life:生活の質)を維持・向上させるためのケアのことです。
治療の初期段階から、治療と並行して行われるのが特徴です。
終末期医療(ターミナルケア)とは
一方、「終末期医療(ターミナルケア)」とは、病気の回復が見込めないと判断された患者さんに対して行われる医療・ケアを指します。
延命を主目的とするのではなく、残された時間をできる限り穏やかに、その人らしく過ごせるように支援することを重視します。
これらの現場では、医療従事者が患者さん一人ひとりの価値観や希望に寄り添い、最期まで尊厳が守られるよう尽力しています。
そこには、効率や数字だけでは測れない、人間的な温かさと深い葛藤がありました。
若い頃に読んだ南杏子さんの小説や、現場で出会った緩和ケア医の「“治す”ことだけが医療ではない」という言葉は、私の広報としての姿勢に大きな影響を与えました。
それは、情報を伝えるだけでなく、人の心に寄り添うことの大切さを教えてくれたのです。
医師・薬剤師・患者との対話の中で生まれる物語
医療の現場は、まさに「物語」の宝庫です。
医師が下す診断の背景にある葛藤、薬剤師が薬を渡す際に交わす患者さんとの短い会話、そして患者さん自身が病と向き合い、生きる中で紡ぎ出す日々。
広報担当者は、これらの対話に耳を傾け、そこに込められた想いを丁寧にすくい上げます。
例えば、ある新薬が開発された背景には、
- 「この病気で苦しむ人を一人でも減らしたい」という研究者の熱意
- 治験に協力してくれた患者さんの勇気
- そして、その薬を待ち望んでいた多くの人々の期待
といった、数えきれないほどの物語が隠されています。
これらの物語を、個人情報やプライバシーに最大限配慮しながら、多くの人に共感してもらえる形で伝えていく。
それは、単なる製品紹介を超えて、医療に関わる全ての人々の想いを繋ぐ作業と言えるでしょう。
そして、その物語に触れた人が、ほんの少しでも勇気や希望を感じてくれたなら、それこそが広報担当者にとって何よりの喜びなのです。
正確さと希望のバランス
医療情報を発信する上で、最も神経を使うのが「正確さ」と「希望」のバランスです。
誤った情報は人々の健康を脅かす可能性があり、一方で、過度な期待は失望を生むこともあります。
この二つの要素をいかに両立させるか、常に自問自答する日々です。
誤解を招かない表現とは
医療情報は、時に人の生死に関わるため、その表現には細心の注意が必要です。
誤解を招かないためには、以下の点が重要だと考えています。
- 客観的な事実に基づくこと:
科学的根拠(エビデンス)のない情報や、個人の感想に過ぎないものを、あたかも確定的な事実であるかのように伝えてはいけません。 - 断定的な表現を避けること:
「必ず治る」「絶対に安全」といった表現は、誤解や過度な期待を生む可能性があります。効果や副作用には個人差があることを明記するなど、慎重な言葉選びが求められます。 - 専門用語の平易化と補足説明:
難しい専門用語は避け、分かりやすい言葉に置き換えるか、注釈を加えるなどして、誰もが理解できるように努めます。
例えば、「寛解(かんかい)」という言葉を使う際には、「症状が一時的あるいは継続的に軽快した状態」といった説明を添えるなどです。 - 誇張表現をしないこと:
効果を実際よりも大きく見せたり、メリットばかりを強調したりするのではなく、リスクや限界についても公平に伝える必要があります。
「私たちの言葉一つで、患者さんの選択が変わるかもしれない。その重みを常に意識しなければならない。」
これは、私が広報担当者として常に心に刻んでいる言葉です。
「伝える責任」と「癒す力」
情報を正確に伝える「責任」。
これは、医療広報における大前提です。
しかし、それだけでは十分ではないと私は考えています。
情報を受け取った人が、前向きな気持ちになれたり、安心感を得られたりするような、「癒す力」もまた、言葉には宿っていると信じているからです。
特に、病と闘う患者さんやそのご家族にとって、情報は時に大きな精神的支えとなります。
だからこそ、冷たい事実の羅列ではなく、温かみのある言葉で、そっと寄り添うような情報発信を心がけています。
もちろん、「癒す力」を追求するあまり、事実を歪めたり、根拠のない楽観論を振りまいたりすることは許されません。
あくまでも正確な情報に基づいて、言葉の選び方や表現のトーンに細心の注意を払い、希望の光を届けられるよう努めるのです。
このバランス感覚こそ、プロフェッショナルな医療広報担当者に求められる資質の一つと言えるでしょう。
疾患啓発記事に込める想い
疾患啓発とは、特定の病気に関する正しい知識を広く社会に伝え、早期発見・早期治療を促したり、患者さんへの誤解や偏見をなくしたりすることを目的とした活動です。
私が疾患啓発記事を執筆する際に込める想いは、主に以下の3つです。
1. 「知る」ことで不安を減らす
病気に対する正しい知識は、漠然とした不安を軽減し、冷静な判断を促します。
「何が起こっているのか」「どうすれば良いのか」が分かれば、人は次の一歩を踏み出しやすくなります。
2. 早期発見・早期治療への架け橋となる
「もしかして…」と感じたときに、適切な医療機関を受診するきっかけを提供したい。
早期に発見し、適切な治療を開始できれば、より良い経過が期待できる疾患は少なくありません。
3. 社会の理解を深め、孤立を防ぐ
病気を抱える方々が、社会の中で孤立することなく、安心して暮らせる環境づくりに貢献したい。
そのためには、周囲の人々の理解とサポートが不可欠です。
これらの想いを胸に、一つひとつの記事が、誰かの「お守り」のような存在になれることを願って、言葉を紡いでいます。
現場を伝えるためのリサーチ術
「命の現場」をリアルに、そして深く伝えるためには、徹底したリサーチが欠かせません。
それは、単に情報を集めるだけでなく、その情報が持つ意味や背景を理解し、多角的な視点を持つための重要なプロセスです。
医学専門書とSNS、両方を読む理由
情報収集の手段として、私は医学専門書とSNSの双方を重視しています。
一見、対極にあるように見えるこれらの情報源ですが、それぞれに異なる価値があるのです。
- 医学専門書・学術論文:
- 役割: 疾患のメカニズム、治療法の標準的な考え方、最新の研究成果など、体系的かつ信頼性の高い知識を得るための基盤。
- 活用法: 記事の骨子となる正確な情報を把握し、専門的な裏付けを取る。
- SNS(患者ブログ、X(旧Twitter)など):
- 役割: 患者さんやそのご家族のリアルな悩み、治療生活の実態、医療に対する本音など、生の声に触れる。医療従事者の個人的な発信から、現場の雰囲気や課題が見えることも。
- 活用法: 専門書だけでは見えてこない当事者の視点や感情を理解し、共感性の高い記事作りに活かす。ただし、情報の真偽には注意が必要。
なぜ両方が必要なのか?
専門書だけでは、知識は得られても、人々の「体温」を感じることは難しいかもしれません。
逆に、SNSの声だけに頼ると、情報が断片的であったり、偏っていたりする可能性があります。
正確な知識という「縦糸」と、人々のリアルな声という「横糸」を織りなすことで、初めて深みと温かみのある記事が生まれると、私は考えています。
インタビューの準備と現場対応
インタビューは、現場の生きた情報を得るための最も重要な手段の一つです。
成功のためには、事前の準備と現場での対応が鍵となります。
インタビュー前の準備
- 対象者の徹底リサーチ:
医師であれば専門分野や過去の論文、患者さんであれば可能な範囲で闘病の経緯などを事前に調べ、理解を深めます。 - 質問項目の作成と共有:
聞きたいことを明確にし、事前に大まかな質問項目を共有することで、相手も準備ができ、より深い話を引き出しやすくなります。ただし、ガチガチに固めず、会話の流れで柔軟に対応する余地を残します。 - 仮説を持つ:
リサーチに基づき、「この方はこういう経験をされているのではないか」「こういう点に課題を感じているのではないか」といった仮説を持つことで、質問に深みが増します。
インタビュー現場での対応
- 傾聴の姿勢: まずは相手の話をじっくりと聞くこと。遮らず、共感の言葉を挟みながら、話しやすい雰囲気を作ります。
- 深掘りする質問: 表面的な回答だけでなく、「なぜそう思うのか」「その時どう感じたのか」といった質問で、本質に迫ります。
- 感謝と敬意: 貴重な時間を割いて話をしてくださる相手への感謝と敬意を常に忘れません。
- 記録の徹底: ICレコーダーでの録音許可を得るとともに、重要なポイントはメモを取ります。表情や仕草など、言葉以外の情報も観察します。
インタビューは、単に情報を「聞き出す」場ではなく、相手との信頼関係を築き、共に「物語」を紡ぎ出す共同作業であると捉えています。
見落とされがちな“患者の声”のすくい上げ方
医療の主役は、言うまでもなく患者さんです。
しかし、その声は時に小さく、見落とされがちです。
広報担当者として、これらの貴重な声を丁寧にすくい上げ、社会に届ける努力が求められます。
1. 患者アンケート・インタビューの実施
製薬会社や医療機関が主体となり、治療満足度、副作用の経験、医療者に伝えたいことなどを直接尋ねる機会を設けます。
2. 患者ブログ・SNSの分析(倫理的配慮のもと)
公開されている情報の中から、患者さんがどのような点に悩み、何を求めているのか、その傾向を把握します。個人が特定できないよう、統計的な分析に留めるなど、倫理的な配慮が不可欠です。
3. 患者団体・支援グループとの連携
患者団体は、当事者の声を組織的に集約している貴重な存在です。定期的な意見交換の場を設け、ニーズや課題を共有します。
4. 医療従事者を通じた間接的なヒアリング
医師や看護師、薬剤師は、日々多くの患者さんと接しています。彼らから「患者さんはこんなことで困っていた」「こんな情報を欲しがっていた」といった間接的な情報を得ることも有効です。
5. PMDAメディナビなどの公的情報
医薬品医療機器総合機構(PMDA)が提供する「PMDAメディナビ」のように、患者さんや一般の方からの情報を収集し、安全対策に活かす仕組みもあります。
これらの多様なアプローチを通じて、声なき声に耳を澄まし、それを医療の改善やより良い情報発信に繋げていくことが、私たちの重要な使命の一つです。
これからの医療広報のかたち
医療を取り巻く環境は、デジタル技術の進化とともに、目まぐるしく変化しています。
このような時代において、医療広報はどのような役割を担い、どのように進化していくべきなのでしょうか。
デジタル時代における医療コミュニケーション
インターネットやスマートフォンの普及は、医療情報の流れを大きく変えました。
患者さんや一般の方々が、能動的に情報を収集し、発信することが容易になったのです。
この変化は、医療広報に新たな可能性と課題をもたらしています。
可能性:
- 迅速かつ広範囲な情報提供: WebサイトやSNSを通じて、最新の医療情報や緊急性の高い情報を、瞬時に多くの人に届けられる。
- 双方向のコミュニケーション: 患者さんや医療関係者からの質問や意見に直接応え、対話を深めることができる。
- 多様なコンテンツ形式: テキストだけでなく、動画、インフォグラフィック、ウェビナーなど、分かりやすく魅力的なコンテンツを提供できる。
課題:
- 情報の氾濫と質の見極め: 誤情報や不確かな情報(インフォデミック)が拡散しやすく、人々が信頼できる情報源を見極めることが難しくなっている。
- デジタルデバイド: 高齢者など、デジタル機器の利用に不慣れな層への情報提供のあり方。
- プライバシー保護とセキュリティ: 個人情報を含む医療情報の取り扱いには、より一層の注意が必要。
これからの医療広報は、これらのデジタルツールの特性を最大限に活かしつつ、情報の信頼性を担保し、誰一人取り残さないコミュニケーションを目指す必要があります。
信頼と共感をどう築くか
情報が溢れる現代において、人々が医療情報に求めるものは、単なる「知識」だけではありません。
その情報が「信頼できるか」、そして発信者に「共感できるか」が、ますます重要になっています。
では、どのようにして信頼と共感を築いていけば良いのでしょうか。
1. 透明性の高い情報開示
良い情報だけでなく、副作用やリスクといったネガティブな情報も包み隠さず、誠実に開示する姿勢が信頼の基盤となります。
企業の利益よりも、患者さんの利益を優先する倫理観が問われます。
2. 患者中心のコミュニケーション
一方的な情報発信ではなく、患者さんの声に耳を傾け、そのニーズに応えることを第一に考える。
「あなたのために」というメッセージが伝わることが大切です。
3. ストーリーテリングの活用
データや事実だけでなく、開発者の想いや患者さんの体験談といった「物語」を伝えることで、感情的な繋がりを生み出し、共感を深めることができます。
4. 一貫性のあるメッセージ
発信する情報や企業の姿勢に一貫性を持たせることで、長期的な信頼関係を構築します。
5. 顔の見えるコミュニケーション
広報担当者や医療従事者が、自らの言葉で語りかけることで、親近感や安心感を与えることができます。
これらの要素を地道に積み重ねていくことが、デジタル時代における信頼と共感の醸成に繋がると信じています。
若い世代へのバトン:次世代の広報に望むこと
私がこれまで培ってきた経験や想いを、これからの医療を担う若い世代の広報担当者たちに繋いでいきたいと強く願っています。
次世代の医療広報に望むことは、以下の3点です。
1. 高い倫理観と科学的リテラシー
医療という人の命に直結する分野において、何よりもまず高い倫理観が求められます。
そして、複雑化する医療情報を正しく理解し、発信するための科学的リテラシーを磨き続けてほしいと思います。
2. 共感力とコミュニケーション能力
多様な立場の人々の痛みや喜びに共感し、その想いを的確な言葉で表現する力。
そして、デジタルツールを駆使しながらも、人と人との温かい繋がりを大切にするコミュニケーション能力を養ってほしいです。
3. 変化を恐れない柔軟性と探求心
医療も情報伝達の手段も、常に進化し続けます。
新しい技術や考え方を積極的に学び、変化を恐れずに新しい広報の形を模索していく探求心を持ち続けてほしいと願っています。
私の好きな言葉に、「情報は、それを受け取る人の心に届いて初めて意味を持つ」というものがあります。
若い世代の皆さんには、この言葉を胸に、常に受け手のことを想い、“正確さ”と“希望”を両輪とした情報発信を追求していってほしいです。
まとめ
製薬会社の広報という仕事は、単に製品や企業活動を宣伝することではありません。
それは、研究室で生まれた革新的な技術や、医療現場で日々奮闘する人々の情熱、そして病と向き合う患者さんの切実な願いを、「命の物語」として社会に伝え、繋いでいく役割を担っています。
私が研究職と広報職の両面から見てきた医療の現場には、常に人間の喜びや悲しみ、希望や葛藤といった「温度」がありました。
その温かさ、そして時に厳しさも含めて、できる限りありのままに伝えることが、私の使命だと感じています。
この記事を通じて、読者の皆様一人ひとりが、医療という世界を少しでも身近に感じ、そして「知ること」が、不安を乗り越え、前向きな一歩を踏み出すための力となることを心から願っています。
医療は、誰にとっても他人事ではありません。
その最前線で生まれる情報を正しく理解し、活用することが、私たち自身の健康と未来を守ることに繋がるのです。
これからも、広報の枠を超えて、“命”を伝えることの意味を問い続けながら、言葉を紡いでいきたいと思います。
最終更新日 2025年5月20日 by aequorea